2015年07月15日
菜の花畑のむこうとこちら/樹村みのり
おはようございます、結城です。

今回は樹村みのりの代表作『菜の花畑のむこうとこちら』をご紹介いたします。

■菜の花畑のむこうとこちら/樹村みのり
書 名/菜の花畑のむこうとこちら
著者名/樹村みのり
出版元/ブロンズ社
判 型/A5判
定 価/890円
シリーズ名/なし
初版発行日/昭和55年3月25日
収録作品/菜の花、菜の花畑のこちら側①~③、菜の花畑のむこうとこちら、菜の花畑は夜もすがら、菜の花畑は満員御礼、解説・「菜の花畑へ行く道」亜庭じゅん
初出:菜の花/小学館「別冊少女コミック」1975年1月号、菜の花畑のこちら側/小学館「別冊少女コミック」1975年11月号~1976年1月号、菜の花畑のむこうとこちら/小学館「別冊少女コミック」1977年3月号、菜の花畑は夜もすがら/小学館「別冊少女コミック」1977年10月号、菜の花畑は満員御礼/小学館「別冊少女コミック」1977年12月号
「菜の花畑」シリーズは複数回単行本化されているし、シリーズの作品が各種アンソロジーに採録されるなどしている、樹村みのりのまぎれもない代表作だ。今回取り上げたブロンズ社版は、その最初の単行本であり、決定版である。
第一作目の『菜の花』は、その後のシリーズとは直接つながってはいない。登場するキャラクターに共通性はあるものの、いわばパイロット版的な印象を受ける。二作目以降のシリーズは連続した物語となっており、登場人物たちの生き生きとした描写がこの作品の魅力といっていい。
このシリーズは、簡単に言うと、まあちゃんという女の子の住む家に下宿する四人の女子大生たちのドタバタコメディとなると思うが、アットホームな雰囲気でほのぼのと心温まる作品である。
二作目以降、二年にわたって六作が描かれたわけだが、まだまだ続きが描ける状態で終わっているのは少し残念なところでもある。特にまあちゃんの父親など、ネタ振りをしたまま明かされていない謎も残している。こういったシリーズだと、女子大生たちが卒業したり、下宿先であるまあちゃんの家が取り壊しになったりといった形で「完結」を迎えるのが一般的な終わり方だと思うが、そのような気配もなく、作者としては『菜の花畑は満員御礼』を最後にシリーズを完結させようとは思っていなかったのではないかとも思える。
そして『~満員御礼』から3年後、本書の刊行までシリーズ作品が描かれることなく、シリーズをまとめた本書が刊行されたことで作者の中で一応の完結となったのではないか、と推測する。
もうひとつ、主人公が小学校低学年のまあちゃんであり、彼女を取り巻くのが四人の女子大生というのは、掲載誌である「別冊少女コミック」のコアな読者層の年代の少女が登場していないということだ。確かに一定の支持を受け、人気もあったシリーズだったと思うが、編集サイドと作者のあいだで「誰に向けた作品か」という点で乖離があったのではないかという気がしないこともない。
少女漫画の単行本ではよくあることだが、初出時の広告スペースを使って作品の裏話や作者からのメッセージが挿入されることが多々ある。本書でも登場する四人の女子大生についての裏話を見ることができる。それはモトコさん、森ちゃん、ネコちゃん、スガちゃんといった愛称だけで呼ばれる彼女たちの本名についてだ。興味のある方はぜひ単行本をお読みいただきたい。
樹村みのり作品を紹介し始めた当初、樹村作品は文学的だ、と述べた。シリアスな作品は確かにコミックだけではなく、文学作品としても成立する、あるいは文学作品として書かれた方がよかったかもしれないものがある。とはいえ本作のような作品は、樹村みのりが漫画家であることを確かに証明していて、漫画家・樹村みのりだからこそ描けた作品だと思える。残念なことに現在では単行本の多くが入手困難であるし、シリアスな作品など特に新しい読者の目に触れる機会がないのではないかと思う。正直に言って異色な作家であるともいえる。だからこそ個人作品集などの形で再刊行していただきたい作家の一人なのだ。

今回は樹村みのりの代表作『菜の花畑のむこうとこちら』をご紹介いたします。

■菜の花畑のむこうとこちら/樹村みのり
書 名/菜の花畑のむこうとこちら
著者名/樹村みのり
出版元/ブロンズ社
判 型/A5判
定 価/890円
シリーズ名/なし
初版発行日/昭和55年3月25日
収録作品/菜の花、菜の花畑のこちら側①~③、菜の花畑のむこうとこちら、菜の花畑は夜もすがら、菜の花畑は満員御礼、解説・「菜の花畑へ行く道」亜庭じゅん
初出:菜の花/小学館「別冊少女コミック」1975年1月号、菜の花畑のこちら側/小学館「別冊少女コミック」1975年11月号~1976年1月号、菜の花畑のむこうとこちら/小学館「別冊少女コミック」1977年3月号、菜の花畑は夜もすがら/小学館「別冊少女コミック」1977年10月号、菜の花畑は満員御礼/小学館「別冊少女コミック」1977年12月号
「菜の花畑」シリーズは複数回単行本化されているし、シリーズの作品が各種アンソロジーに採録されるなどしている、樹村みのりのまぎれもない代表作だ。今回取り上げたブロンズ社版は、その最初の単行本であり、決定版である。
第一作目の『菜の花』は、その後のシリーズとは直接つながってはいない。登場するキャラクターに共通性はあるものの、いわばパイロット版的な印象を受ける。二作目以降のシリーズは連続した物語となっており、登場人物たちの生き生きとした描写がこの作品の魅力といっていい。
このシリーズは、簡単に言うと、まあちゃんという女の子の住む家に下宿する四人の女子大生たちのドタバタコメディとなると思うが、アットホームな雰囲気でほのぼのと心温まる作品である。
二作目以降、二年にわたって六作が描かれたわけだが、まだまだ続きが描ける状態で終わっているのは少し残念なところでもある。特にまあちゃんの父親など、ネタ振りをしたまま明かされていない謎も残している。こういったシリーズだと、女子大生たちが卒業したり、下宿先であるまあちゃんの家が取り壊しになったりといった形で「完結」を迎えるのが一般的な終わり方だと思うが、そのような気配もなく、作者としては『菜の花畑は満員御礼』を最後にシリーズを完結させようとは思っていなかったのではないかとも思える。
そして『~満員御礼』から3年後、本書の刊行までシリーズ作品が描かれることなく、シリーズをまとめた本書が刊行されたことで作者の中で一応の完結となったのではないか、と推測する。
もうひとつ、主人公が小学校低学年のまあちゃんであり、彼女を取り巻くのが四人の女子大生というのは、掲載誌である「別冊少女コミック」のコアな読者層の年代の少女が登場していないということだ。確かに一定の支持を受け、人気もあったシリーズだったと思うが、編集サイドと作者のあいだで「誰に向けた作品か」という点で乖離があったのではないかという気がしないこともない。
少女漫画の単行本ではよくあることだが、初出時の広告スペースを使って作品の裏話や作者からのメッセージが挿入されることが多々ある。本書でも登場する四人の女子大生についての裏話を見ることができる。それはモトコさん、森ちゃん、ネコちゃん、スガちゃんといった愛称だけで呼ばれる彼女たちの本名についてだ。興味のある方はぜひ単行本をお読みいただきたい。
樹村みのり作品を紹介し始めた当初、樹村作品は文学的だ、と述べた。シリアスな作品は確かにコミックだけではなく、文学作品としても成立する、あるいは文学作品として書かれた方がよかったかもしれないものがある。とはいえ本作のような作品は、樹村みのりが漫画家であることを確かに証明していて、漫画家・樹村みのりだからこそ描けた作品だと思える。残念なことに現在では単行本の多くが入手困難であるし、シリアスな作品など特に新しい読者の目に触れる機会がないのではないかと思う。正直に言って異色な作家であるともいえる。だからこそ個人作品集などの形で再刊行していただきたい作家の一人なのだ。
Posted by YOUKIAya at
05:55
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2015年07月15日
ARCADIA 深夜の部、営業中!
こんばんは!
ARCADIA+α、深夜営業スタートです^^

今夜のお相手は…。
オーナー、ガラスとわたし、結城でございます。

ガラス

結城
寝る前にまったりとお話しませんか?
お待ちしております^^
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ガラス

結城
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2015年07月14日
Openだよぉ
こんばんはぁ じゅんです。

先日、お客様のご要望によりVIPルームができました。
スタッフの人数によってはご利用できない場合もございますが、
予め予約を入れていただければご使用でいただけます。
VIPルームができ、より接客スタイルも本店とより近くなるため、
チャージ料の100L$が発生いたします。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://arcadia.slmame.com/c94397.html
右のロゴからTP もしくはスリンクでお越しくださいね。
★★★★★★★★出勤スタッフ★★★★★★★★★★★★★

じゅん

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★★★★★★★★出勤スタッフ★★★★★★★★★★★★★

じゅん
2015年07月14日
カッコーの娘たち/樹村みのり
こんにちは、結城です。

今回ご紹介するのは、樹村みのりの『カッコーの娘たち』です。

■カッコーの娘たち/樹村みのり
書 名/カッコーの娘たち
著者名/樹村みのり
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックスmimi(936)
初版発行日/昭和54年3月15日
収録作品/カッコーの娘たち、40-0、海の宝石、ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」、わたしの宇宙人
初出:カッコーの娘たち/講談社「月刊ミミ」昭和53年4、6月号、40-0/講談社「月刊ミミ」昭和52年2月号、海の宝石/講談社「月刊ミミ」昭和52年9月号、ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」/昭和54年1月号、わたしの宇宙人/小学館「ビックコミック・オリジナル」昭和52年5月1日増刊号
表題作『カッコーの娘たち』は、父が亡くなり、母も長期の入院が必要になったことから三姉妹がそれぞれ親類の家に引き取られることになったのを、カッコーの托卵になぞらえてのタイトル。『母親の娘たち』『海辺のカイン』に先立って母娘関係に言及した作品ともいえるが、ここではまだ娘たちの成長に重点を置いたストーリーとなっている。とはいえ次女のビリーが、展子となり麻子になっていったのは確かだろう。三姉妹がそれぞれ別の環境で暮らしていくことで生じていくすれ違いと絆を描いているのだが、当初は長女が語り手として主人公になるような印象を受けるが、中盤から次女を中心としたものになっていく。三女は幼いため両親の記憶がほとんどなく、長女はそれなりに両親を理解していて、次女だけが中途半端な記憶から、母娘関係のトラウマえ抱えていることから、後半はそのテーマが語られることになる。もっとも本作では母親が精神を病んでいるという設定もあって『母親の娘たち』や『海辺のカイン』で描かれた母娘関係とは少し違うのではあるが。
それにしても、樹村みのりは人の性格や生きざまを対比するのが達者な作家なようだ。本作でも三姉妹がそれぞれ違った環境におかれるとはいえ、三人三様といえる生きざまが描かれていて、NHKの朝ドラを見ているような感覚になってしまう。というか、こういう作品を実写化してくださいよ(笑)。
『40-0』はタイトルからもわかるようにテニスを題材にしているが、スポーツ漫画ではない。テニスを通じて知り合った青年と少女の恋物語であり、樹村みのりにしては直球の恋愛ものである。本作は樹村みのりの「月刊ミミ」初登場作品である。
『海の宝石』は、見ず知らずの少女が「あなたのご主人を殺しに来ました」と登場するミステリアスな出だしだが、『海辺のカイン』でこの出会いのシーンはリメイクされている。
『ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」』は、コメディタッチのホームドラマ、と言えばいいか。樹村みのりらしい作品のひとついえるだろう。
『わたしの宇宙人』は樹村みのりのラブコメディ! 樹村みのりというと重いテーマの作品を思い浮かべてしまうのだが、一般的には本作や『ふたりが出会えば』『菜の花畑の向こう側』などコメディ調の作品で知られているのではないかと思う。それはそれでいいのだけれど、重いテーマのシリアスな作品も、もっと広く読まれて欲しいし、入手しづらい作品の再刊行などもして欲しい。

今回ご紹介するのは、樹村みのりの『カッコーの娘たち』です。

■カッコーの娘たち/樹村みのり
書 名/カッコーの娘たち
著者名/樹村みのり
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックスmimi(936)
初版発行日/昭和54年3月15日
収録作品/カッコーの娘たち、40-0、海の宝石、ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」、わたしの宇宙人
初出:カッコーの娘たち/講談社「月刊ミミ」昭和53年4、6月号、40-0/講談社「月刊ミミ」昭和52年2月号、海の宝石/講談社「月刊ミミ」昭和52年9月号、ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」/昭和54年1月号、わたしの宇宙人/小学館「ビックコミック・オリジナル」昭和52年5月1日増刊号
表題作『カッコーの娘たち』は、父が亡くなり、母も長期の入院が必要になったことから三姉妹がそれぞれ親類の家に引き取られることになったのを、カッコーの托卵になぞらえてのタイトル。『母親の娘たち』『海辺のカイン』に先立って母娘関係に言及した作品ともいえるが、ここではまだ娘たちの成長に重点を置いたストーリーとなっている。とはいえ次女のビリーが、展子となり麻子になっていったのは確かだろう。三姉妹がそれぞれ別の環境で暮らしていくことで生じていくすれ違いと絆を描いているのだが、当初は長女が語り手として主人公になるような印象を受けるが、中盤から次女を中心としたものになっていく。三女は幼いため両親の記憶がほとんどなく、長女はそれなりに両親を理解していて、次女だけが中途半端な記憶から、母娘関係のトラウマえ抱えていることから、後半はそのテーマが語られることになる。もっとも本作では母親が精神を病んでいるという設定もあって『母親の娘たち』や『海辺のカイン』で描かれた母娘関係とは少し違うのではあるが。
それにしても、樹村みのりは人の性格や生きざまを対比するのが達者な作家なようだ。本作でも三姉妹がそれぞれ違った環境におかれるとはいえ、三人三様といえる生きざまが描かれていて、NHKの朝ドラを見ているような感覚になってしまう。というか、こういう作品を実写化してくださいよ(笑)。
『40-0』はタイトルからもわかるようにテニスを題材にしているが、スポーツ漫画ではない。テニスを通じて知り合った青年と少女の恋物語であり、樹村みのりにしては直球の恋愛ものである。本作は樹村みのりの「月刊ミミ」初登場作品である。
『海の宝石』は、見ず知らずの少女が「あなたのご主人を殺しに来ました」と登場するミステリアスな出だしだが、『海辺のカイン』でこの出会いのシーンはリメイクされている。
『ニィおじちゃんの優雅な「苦笑」』は、コメディタッチのホームドラマ、と言えばいいか。樹村みのりらしい作品のひとついえるだろう。
『わたしの宇宙人』は樹村みのりのラブコメディ! 樹村みのりというと重いテーマの作品を思い浮かべてしまうのだが、一般的には本作や『ふたりが出会えば』『菜の花畑の向こう側』などコメディ調の作品で知られているのではないかと思う。それはそれでいいのだけれど、重いテーマのシリアスな作品も、もっと広く読まれて欲しいし、入手しづらい作品の再刊行などもして欲しい。
Posted by YOUKIAya at
10:37
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2015年07月13日
母親の娘たち/樹村みのり
こんにちは、結城です。

今回も樹村みのりの作品から『母親の娘たち』をご紹介します。
前回ご紹介した『海辺のカイン』と併せて読むのをお薦めします。

■母親の娘たち/樹村みのり
書 名/母親の娘たち
著者名/樹村みのり
出版元/河出書房新社
判 型/A5判
定 価/980円
シリーズ名/カワデ・パーソナル・コミックス(24)
初版発行日/1990年3月31日
収録作品/母親の娘たち(1・上野舞子、2・水島麻子、3・グレート・マザー(太母)、4・母なるものを求めて、5・新たな展開、6・パンドラの箱)、あとがき
初出:秋田書店「Bonita Eve」1984年1~6月号
作者は「あとがき」で、本作を描いた83年の2、3年前ごろから母娘関係に関心を持っていたと語っている。『海辺のカイン』が描かれたのが80年なので、この頃からということになるのだろう。また同時期の『悪い子』も少し系統は違うが同じテーマから発想されたと考えていいだろう。
『海辺のカイン』でも母娘関係についてはメインとも言えるテーマになっていたが、本作で樹村みのりは正面から母娘関係に取り組んでいる。と同時に83年当時、あまり母娘関係について言及されることがないのは、男性視点からであり、女性の発言が増えることによって母娘関係についての言及も増えるだろうと「あとがき」で述べており、女性である樹村みのりが母娘関係をテーマに作品を描くということは、二重の意味があったのだと思う。とはいえ、作品の内容とは別に、この作品が成功したかというと、残念ながらそうではなかったようだ。というのも連載終了後、本作が単行本として刊行されるまでには6年が経っているからだ。「あとがき」を読む限り河出書房新社でも本作を単行本化しようと初めから企画していたのではなく、「樹村みのりの単行本を出そう」ということのようだったらしく、『母親の娘たち』に決まったのは作者のチョイスのようだ。長編作品の少ない樹村みのりのもっとも長い作品でもあり、テーマへのこだわりから言っても代表作といえる本作が、ある意味、偶然単行本化されたというのは興味深い事実ではある。
中学時代に同級生だったふたりの女性が再会する。ひとりは結婚しふたりの子供を持つ上野舞子。もうひとりは独身でイラストレーターの水島麻子。中学時代のエピソードは、かつて樹村みのりが描いた短編などを彷彿とさせ、それらのキャラクターたちの成長した姿のようにも思える。そして水島麻子は『海辺のカイン』の展子の分身のようだ。樹村みのりはこのとき、自身の作品の集大成のような作業をしていたのかもしれない。
ここで描かれた母娘関係は上野舞子のもので、『海辺のカイン』で描かれた展子のものとは対照的だ。はっきりと描かれてはいないが水島麻子は展子のような母娘関係を経験していたのだろう。その対比から何かを描き出そうとしていたのだと思えるが、樹村みのりは別の方向へと話を展開してしまう。サブタイトル「新たな展開」がまさにそうなのだ。
水島麻子は『海辺のカイン』の展子と同じような経験をするが、数年を経て上野舞子とまた会ったときに、ふたりの会話によって『海辺のカイン』が最終的に完結したような印象を受けた。つまりは本作は『海辺のカイン』とセットで初めてその本質に迫るという構造といえるのではないかと思う。
未読の方はぜひ本作の前に『海辺のカイン』をお読みください。

今回も樹村みのりの作品から『母親の娘たち』をご紹介します。
前回ご紹介した『海辺のカイン』と併せて読むのをお薦めします。

■母親の娘たち/樹村みのり
書 名/母親の娘たち
著者名/樹村みのり
出版元/河出書房新社
判 型/A5判
定 価/980円
シリーズ名/カワデ・パーソナル・コミックス(24)
初版発行日/1990年3月31日
収録作品/母親の娘たち(1・上野舞子、2・水島麻子、3・グレート・マザー(太母)、4・母なるものを求めて、5・新たな展開、6・パンドラの箱)、あとがき
初出:秋田書店「Bonita Eve」1984年1~6月号
作者は「あとがき」で、本作を描いた83年の2、3年前ごろから母娘関係に関心を持っていたと語っている。『海辺のカイン』が描かれたのが80年なので、この頃からということになるのだろう。また同時期の『悪い子』も少し系統は違うが同じテーマから発想されたと考えていいだろう。
『海辺のカイン』でも母娘関係についてはメインとも言えるテーマになっていたが、本作で樹村みのりは正面から母娘関係に取り組んでいる。と同時に83年当時、あまり母娘関係について言及されることがないのは、男性視点からであり、女性の発言が増えることによって母娘関係についての言及も増えるだろうと「あとがき」で述べており、女性である樹村みのりが母娘関係をテーマに作品を描くということは、二重の意味があったのだと思う。とはいえ、作品の内容とは別に、この作品が成功したかというと、残念ながらそうではなかったようだ。というのも連載終了後、本作が単行本として刊行されるまでには6年が経っているからだ。「あとがき」を読む限り河出書房新社でも本作を単行本化しようと初めから企画していたのではなく、「樹村みのりの単行本を出そう」ということのようだったらしく、『母親の娘たち』に決まったのは作者のチョイスのようだ。長編作品の少ない樹村みのりのもっとも長い作品でもあり、テーマへのこだわりから言っても代表作といえる本作が、ある意味、偶然単行本化されたというのは興味深い事実ではある。
中学時代に同級生だったふたりの女性が再会する。ひとりは結婚しふたりの子供を持つ上野舞子。もうひとりは独身でイラストレーターの水島麻子。中学時代のエピソードは、かつて樹村みのりが描いた短編などを彷彿とさせ、それらのキャラクターたちの成長した姿のようにも思える。そして水島麻子は『海辺のカイン』の展子の分身のようだ。樹村みのりはこのとき、自身の作品の集大成のような作業をしていたのかもしれない。
ここで描かれた母娘関係は上野舞子のもので、『海辺のカイン』で描かれた展子のものとは対照的だ。はっきりと描かれてはいないが水島麻子は展子のような母娘関係を経験していたのだろう。その対比から何かを描き出そうとしていたのだと思えるが、樹村みのりは別の方向へと話を展開してしまう。サブタイトル「新たな展開」がまさにそうなのだ。
水島麻子は『海辺のカイン』の展子と同じような経験をするが、数年を経て上野舞子とまた会ったときに、ふたりの会話によって『海辺のカイン』が最終的に完結したような印象を受けた。つまりは本作は『海辺のカイン』とセットで初めてその本質に迫るという構造といえるのではないかと思う。
未読の方はぜひ本作の前に『海辺のカイン』をお読みください。
Posted by YOUKIAya at
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